2014/02/24

公共政策学の定義について改めて考えたこと

 「公共政策学って、どんなことを勉強してるんですか?」と聞かれることがたまにある。初対面の人との会話に出てくる、ちょっとしたトピックのひとつだ。「そもそも公共政策の歴史とは・・・」みたいな大上段の講義を期待されているわけではなく(まあ期待されてもできないけど)、短い言葉でそれなりに的を得た回答ができればそれでいい。
 ところが、これがなかなかに難しい。「MBAみたいなもので」とか、「経済学みたいなもので」とか、その場その場でお茶を濁してきたが、どうもわかったようでわからない。「みたいなもの」ってどういうことだ。アイデンティティの喪失か。

 公共政策学とは何なのか。
 卒業まで3カ月を切ったこのタイミングで、改めて考えを整理してみた。


 まず、最も安易な答えとして思いつくのが、

・ MBAの公的機関バージョン

というものだ。いささか乱暴な表現ではあるが、MBAについて相手に知識があれば、これで済んでしまう部分はわりにある。「不完全な情報を元に、限られた時間内で決断する訓練をする場所」(出所:愛の日記)という意味で、たしかに両者は共通しているのだ。

 あるいは、より皮肉な回答として、

・ MBAのお金が儲からないバージョン

という言い方もある。誤解を避けるために申し添えておくと、これは私の発言ではなく、GSPP内でときどき出てくる自虐的な冗談だ。でも、バークレー市役所の平均年収は84,315ドル(出所:Government Compensation in California, 2011年)というから、そこまで稼ぎが悪いわけでもなさそうだけど。それにひきかえ・・・・・・いや、この話題はここでやめておこう。
 なあに、人生の豊かさは、お金より大切なものがいくつあるかで決まるものですよ。


 (暗転)



 (明転)


 経済学と公共政策学の関係を、理学と工学の関係とのアナロジーで捉えるという手もある。すなわち、自然現象/経済現象を支配する法則群を見つけ、それらを体系化・モデル化するプロセスを理学経済学とすれば、そこで得られた知見を応用し、実社会に活かすプロセスが工学公共政策学である、という見方だ。
 具体例を挙げると、

・ 電気や磁気のふるまいを研究するのが理学(電磁気学)で、その理論を使って電力インフラの整備技術について研究するのが工学(電気工学)

であるのに対し、

・ 市場のふるまいを研究するのが経済学で、その理論を使って政府などが取るべきアクションについて研究するのが公共政策学

ということになる。そして興味深いことに、どちらの足元も数学という名の強固な学問的基盤に支えられている。(註: ここではあえて話を単純化しているが、実際には大学院によって多少趣きが異なることに留意されたい。たとえば、シラキュース大学マックスウェル行政大学院は、より政治学にフォーカスしたカリキュラムであると聞く)


 また、公共政策学のそもそもの目的を追っていけば、

・ 世の中を良くするための方法について学ぶこと

という答えに辿り着くだろう。「How to make the world better」というわけだ。英語で言うと、何となくカッコいいですね。ハウトゥーメイクザワールドベター。
 しかしまあ、この表現はいささか漠然としている。世の中を良くするのは、別に公共政策学の専売特許ではないからだ。そこでもう少し輪郭のある言葉を使うと、
 
・ 社会の問題を解決するための手段について学ぶこと

ということになる。「社会の問題を解決するための手段」、それはすなわち政策のことである。GSPPの特徴を踏まえつつ、さらに掘り下げた表現を探すなら、以下の記述がその候補となるかもしれない。

・ 社会に存在する問題をできるだけ定量的に分析し、
  数ある政策オプションの中からどれを選ぶべきか、
  わかりやすいロジックを組み立てて、
  それを人に伝える技術を学ぶこと。

 「公共政策学って、どんなことを勉強してるんですか?」
 よし、今度訊かれたらこう答えよう。
 

2 件のコメント:

  1. Satoruさん
    公共政策学留学について考えていたらこちらにたどり着きました。
    秀逸な記事ありがとうございます。
    仰る通り公共政策の分野に進むということはMBA等から類推するしか説明できないのかもしれませんね。この分野に進む人がどんなイメージで進んでいるのか非常に疑問です。(自分も公共へのインパクトを考える点ではMBA/MPAの分野選択は難しいと思ってます。)
    また拝見させて頂きます。

    返信削除
    返信
    1. ikeさん、コメントありがとうございます。日本ではアメリカに比べて公共政策学の知名度がやや低いので、説明を要する場面がわりにありますね。

      ただ、記事中でも述べたように、大学院ごとにわりに特色が異なるので、安易な一般化もできないのが難しい(というか、奥深い)ところですね。たとえばUCバークレーのHaasビジネススクールは、(MBAながら)NPOや社会起業家など、パブリック・セクターにも強みのあるスクールとして知られています。

      このブログがikeさんのお役に立てたなら幸いです。それでは、また!

      削除