2014/01/27

【JGRB】 新年会のお知らせ

JGRB(UCバークレー日本人研究者の会)の新年会のご案内です。「新年会?それにしてはちょっと遅いんじゃない?」と思ったあなた、中国暦の新年と解釈しておいてください。

日時: 2月9日(日)13:00~15:00頃
場所: ダウンタウンバークレー駅近くのアパートのパーティールーム+屋上
費用: 無料 (ポットラック形式。お酒や飲み物などをご持参ください)

参加希望の方は、

・ 氏名(ふりがな)
・ メールアドレス
・ 電話番号
・ 所属
・ 合計参加人数

をご記入のうえ、当方までご連絡ください(JGRB幹事からの案内メールを受信している方は、そちらにご返信ください)。会場準備の都合上、2月2日(日)正午までにご連絡いただければ幸いです。


(2014年2月10日追記:あいにくの雨にもかかわらず、約40名もの方にお越しいただきました。いやあ、楽しかったです。やっぱりバークレーには優秀な人が揃ってますね。皆さまに感謝!)
 

2014/01/13

ハワイの省エネ政策の表と裏を分析したこと

 あけましておめでとうございます。今年の抱負は、インターネットの接続時間を少なくすることです。Less Internet. More Life.




 今回は、時間の都合で夏休みの間に書けなかった記事を書きたい。それは、
第1回:ハワイのエネルギーと神話の関係を発見したこと
第2回:ハワイの電気代の高さに驚愕したこと
第3回:ハワイの自然エネルギーについて福島の子どもたちに話をしたこと
に続く「ハワイのエネルギー」特集、第4回。ハワイの省エネ政策に関する内容だ。




<第1部 基準年のカラクリ篇>
 ホノルルとバークレーに住んでみて印象深かったのは、「夜が暗い」ということだ。これは全体にお店の閉店時間が早いからというのもあるし、コンビニや自動販売機の絶対数が少なく、あっても照明が弱いからというのもあるだろう。パチンコ屋に至っては、まだ一度も見たことがない。
 私はこれまで「日本=省エネの優等生、アメリカ=大量消費の劣等生」という論調をあちこちで目にし、またそれを特に疑うこともなく信じてきた。でもこちらに来てから、そんなに単純な話でもないよな、と思うようになった。

(これはまったくの余談だけど、省エネの観点から悪玉にされがちなパチンコ業界は、手打ち式のパチンコ台を導入したらどうかしら。古い日本映画を観ているとたまに出てくるあれです。シニア層には間違いなくウケるだろうし、物珍しさから若年層も食いついてくるんじゃないかな(少なくとも私はやってみたい)。「北斗の拳」や「エヴァンゲリオン」みたいに、名画とタイアップするのも面白いかもしれない。パチンコ「生きる」。パチンコ「お茶漬の味」。パチンコ「君も出世ができる」。パチンコ「雁の寺」。パチンコ「鴛鴦歌合戦」。パチンコ「おかあさん」。パチンコ「飢餓海峡」。パチンコ「ガス人間第1号」。パチンコ「人間蒸発」。パチンコ「新幹線大爆破」。パチンコ「ゆきゆきて、神軍」。パチンコ「気違い部落」。パチンコ「田園に死す」。やばい、タイトルを列記しているだけでわくわくしてきた)


出所:ハワイ州産業経済開発観光局「Energy Resources Coordinator's Annual Report 2012」(2013年)を基に筆者作成


 実際のところ、ハワイの省エネはなかなか順調に進んでいる。たとえば、州政府が2009年に掲げた「2030年に30%の電力を節約する」という目標は、上図に見るとおり、2009年に9.3%、2012年に16.4%と、かなりの好成績を収めている。

 ・・・と、ここまで読んで、「えっ?目標を掲げたのは2009年なのに、その年にもう9.3%達成できているってどういうこと?30%の電力を節約って、それはどの時点からの30%?」と疑問に思ったあなた、いやらしいですね。私と同じです。さらに遡って、2005年の時点ですら5.0%達成済みというのも、よく考えると結構シュールな話ではある。これは一体どういうことだ?

 そう訝しんだ私は、インターン中に各方面に取材したのだが、これが思いのほか難航した。「30%は4,300GWhの電力量に等しい」という情報までは得られるのだが、そこから先、肝心の「それはどの地平から見た30%=4,300GWhなのか」という点になると、州政府のレポートにも、ハワイ電力の小冊子にも、はたまた州法にも明記されていない。
 関係者に尋ねても、「数年前・・・」とか「2008年ごろ・・・」といった具合に、回答の抽象度はにわかな上昇傾向を示すのであった。「ハワイの人はそういう細かいことは気にしないんだよ」と切り返す人まで現れて、またそう言われるとまったくそのとおりで、私は自分が何か非常に野暮なことをしている気にすらなってしまった。これもハワイの人徳といえよう。

 答えを見つけてくれたのは、慶應義塾大学からインターンで来ていたKさんだった。それはPUC(Public Utilities Commission。ハワイ州の公益事業を監督・規制する機関)の行政文書を根拠とするもので、

this figure was derived by calculating 30% of the sum of the baseline electricity sales forecasts from the HECO Companies' third Integrated Resource Planning ("IRP") processes ("IRP-3") and KIUC's 2005 IRP, extrapolated to 2030.

であるという。つまり、ハワイ電力が2005年をベースに算定した将来シナリオがまずあって、そこで外挿された2030年の推定消費量、これと比較して「30%」を削減しようという理屈なのだ。そして2005年以前のハワイの電力消費量は、相当な右肩上がりっぷりを見せている(下図参照)。そこから出発した「30%」達成の難易度については、推して知るべし、なのである。


出所: ハワイ州産業経済開発観光局「Hawaii Electricity Consumption」(2013年)を基に筆者作成


 こうした事情を知って、読者の中にはハワイ州政府に憤る向きもあるかもしれない。「ずるいじゃないか」「ちゃんとやれ」と。でも個人的な意見をここに表明するならば、そんなのは全然問題ないと私は思う。むしろ、「ハワイもやるねェ」と感心したくらいだ。
 というのも、数値目標を掲げるいちばんの目的は、結局のところ「景気づけ」にあるからだ。だから「△△年までに目指せ××%!」の「××」の数字はできるだけ大きく、それでいて達成可能なものであるべきだし、その意味で州政府が「2030年までに30%達成!」とぶち上げるのは(そして基準年に関する積極的な話題提供を避けるのは)まことに正しい判断なのである。ハワイ万歳!

 しかし真面目な話、いや上の話も十分真面目なつもりだが、2011年の一人あたり年間電力消費量が20年前の水準に抑えられているという事実は、ハワイで省エネが成功していることの何よりの証左ではないか。そしてその裏方では、景気づけ要員としての「30%」が結構いい仕事をしていると思うのだ。


出所: ハワイ州産業経済開発観光局「Hawaii Electricity Consumption」(2013年)を基に筆者作成
註: 一人あたり年間電力消費量は、「年間電力消費量(商業用含む) ÷ 総人口」を単純計算したもの


<第2部 ハワイの省エネ政策篇>
 「30%」の目標達成に向けて、州政府はどのような省エネ政策を打ち出しているのか。調べてみると、

・ 省エネ設備の導入等を対象とした低金利ローンの提供
・ 省エネ認証制度の活用(Energy StarやLEEDなど。LEEDといえば「32時間プロジェクト」を思い出すなあ!)
・ 住宅・建築物の規制見直し

といった按配で、ほとんどがいわゆる「民生部門」を対象としたものである。でもまあ、考えてみればハワイの最大産業は観光業なので、ホテルなどの省エネ化に注力するのは当然といえば当然のことかもしれない。
 州政府の試算によると、住宅・建築物の省エネだけで、2015年までに1,365GWh、2020年までに2,130GWhの電力量の削減が見込まれる。これは、目標値の大半をカバーする数字である。うーん、未来は明るいなあ(if you agree with this estimate)。


出所: ハワイ州産業経済開発観光局「Achieving Efficiency」(2013年)を基に筆者作成

 
 ところで、ハワイの省エネ政策を調べていて、気になったことが2つある。

 1点目は、「省エネ意識を促す国民運動」的な政策がほとんどないこと。これは日本と比較したときの感想で、「みんなで省エネ!フォーラム」とか、「地球を守ろう!エコポスター・コンクール」とか、そういう市民参加型のイベントって日本ではあちこちで見かけるけれど(見かけすぎてたまに事業仕分けでやられたりするけど)、ハワイではあまり実施されていないようだ。いや、ハワイのみならず、アメリカ全体としてそう言えるような気もする。

 なぜだろう?
 
 私の頭にまず浮かんだのは、「自由」というキーワードだ。要すれば、「私が稼いだお金の使い道を決めるのは私自身であり、その自由を政府に干渉される筋合いはどこにもない」という考えが(ある意味では建国のときから)根強くあるため、誰かに指示・啓蒙されて電力消費を減らすという発想がそもそも出てこない。省エネなんてのは、やりたい奴がやればいいし、やりたくない奴はやらなければいい。人は人、わたしはわたし。そこには「多様性」というキーワードも含まれるだろう。
 逆に考えると、日本ほど省エネ政策に適した国はないのかもしれない。お上の指示には(文句を言いつつも)とりあえず従う国民性。行政指導という名の「抜かずの宝刀」がいまだに鋭い効果を発揮する産官の関係。これは皮肉ではなく、多様性の対極にある国には、その国特有の成功事例があり得るということだ。

 2点目は、省エネに貢献した最大のプレーヤーは「電気代の上昇」なのではないかということ。実はこれが今回の記事の眼目なのだが、まずはハワイの電力市場における需要曲線と供給曲線を描いた以下の図をご覧いただきたい。
(需要曲線と供給曲線、えーと、それ何だっけ?という方には、「政策分析のためのミクロ経済学」をお薦めします。経済学の初学者にはうってつけのサイトです。)




 需要曲線の傾きがマイナスなのは、買い手(=一般家庭や事業者)の需要(=電力使用量)は価格(=電気料金)が安くなるほど増えるからである。
 供給曲線の傾きがゼロなのは、売り手(=ハワイの電力会社)が事実上の独占状態にあり、価格(=電気料金)が燃料費などの電力市場外の要素によって決まるからである。
 その市場均衡点は、需要曲線と供給曲線の交点、上図でいえば「電気料金=P0、電力使用量=Q0」の点で示される。省エネ政策というのは、とどのつまり、このQ0を減少させるための政府の市場介入にほかならないのだ(なんだか教科書っぽい文体になってきたけど、眉に唾をつけて読んでくださいね)。

 然してその手法は2つのパターンに大別される。すなわち、




需要曲線を左方にシフトさせる政策(例:省エネ技術の導入、省エネ意識の啓蒙)と、




供給曲線を上方にシフトさせる政策(例:炭素税、賦課金)である。

 この分類に従えば、州政府の省エネ政策はすべて「需要曲線シフト」であると言ってよいだろう。消費者の負担がダイレクトに見えやすい「供給曲線シフト」は、政治的実現性(Political Feasibility)の面で難があり、政府としては取りづらい選択肢なのだろう。そのあたりの機微は私にもわかる。
 しかし、ここで私は主張したいのだが、これまでのところ、ハワイで最も省エネに貢献したのは、意図せざる結果としての「供給曲線シフト」、すなわち電気代の上昇ではないだろうか。

 この仮説を検証するため、ハワイ州における住宅用(Residential)電気料金と使用量について、2006~2012年のデータを追ってみた。


出所: ハワイ州産業経済開発観光局「Monthly Energy Data」(2013年)などを基に筆者作成(以下同様)


 この図を見てまず気がつくのは、「電気料金と電力使用量は反比例している」ということだ。グラフでみれば、2006年から2012年に至るまで、プロットが左上方に移動している。中でも目立つのは、(石油価格高騰の影響で)電気代がいきなり上がった2008年のインパクトだ。翌年以降、各家庭の使用量はこれに懲りたように削減の一途を辿っている。

 ここで、期間内に需要曲線のシフトが起きていないと仮定すると(あるいは起きていても供給曲線のそれに比べれば無視できるものと仮定すると)、




ということになる。この図が示唆しているのは、電気料金が15セント/kWh上がったとき(言い換えると供給曲線が15セント/kWhぶん上方にシフトしたとき)、1世帯あたり127kWh/月の使用量削減が見込まれるということだ。州政府の統計によれば、2013年3月時点で(以下同様)ハワイ州には421,631世帯いるので、住宅用のカテゴリ全体で643GWh/年の電力量が削減されるという計算になる。
 ちなみに商業用のカテゴリで同様の推定をすると、540GWh/年となる。これを住宅用と合わせると1,183GWh/年となり、「30%目標」の8.3%ぶんに相当する。げに恐ろしきは電気代上昇の省エネ効果。前述の「基準年のカラクリ」を考慮すれば、ほとんどこれだけで目標達成できそうな勢いだ。


出所: ハワイ州産業経済開発観光局「Hawaii Energy Facts & Figures」(2013年)を基に筆者作成


 しかし、ハワイ州全体をひとつの電力市場とみるのはいささか乱暴な話で、なぜなら電力料金も世帯平均所得も島ごとに大きく異なっているからだ。そこで私は、島ごとの需要曲線の傾きの違い(より正確に言うと、電力需要の価格弾力性の違い)を細かく調べることにした。ここでは対照的な例として、オアフ島とモロカイ島における住宅用の電力市場を挙げてみたい。




 まずはオアフ島。ハワイ州の中では比較的電気料金が安い島である。裕福な家が多いためだろう、電力消費も州平均より多い。
 電気料金が15セント/kWh上がったとき、1世帯あたり127kWh/月の使用量削減が見込まれる。オアフ島には264,908世帯がいるので、トータルで401GWh/年の電力量が削減される計算になる。つまり、州全体の電力削減効果を計算したとき、その約6割がオアフ島によるものなのだ。




 次にモロカイ島。ハワイ州の中では比較的電気料金が高く、それでいて貧しい家が多い島である(一般に過疎地は電力供給コストが高い)。それを裏付けるように、電力消費もまことに慎ましやかだ。
 電気料金が15セント/kWh上がったとき、1世帯あたり93kWh/月の削減が見込まれる。オアフ島よりもずっと少ない数字だ。モロカイ島の人々にとって、電気は価格が上がっても消費を減らしにくい(価格弾力性の小さい)必需品なのである。そしてこの島にはわずか2,655世帯しか住んでいないので、島全体でも3GWh/年しか電力量が削減されない計算になる。「乾いたぞうきん」をこれ以上絞るのは、明らかに得策ではないだろう。




 さあ、材料は揃った。ここまでの議論を踏まえ、私の政策提言は次のとおりだ。

・ 「需要曲線シフト」の政策は、これまでどおり継続。
・ ただしオアフ島に対しては、住宅用・商業用ともに「電気料金が最も高い島との差分」で計算されるプレミアム賦課金を設ける。
・ 集めた賦課金は、他島を含めた電力網の整備や余剰買い取り制度などの予算に充填する。
・ これにより、再生可能エネルギー比率増によるエネルギー源の多様化が進み、中長期的にみれば(全島平均の)電気料金の低下が期待される。

 どうだろう。手前味噌になるが、「島間の電気料金の格差問題」と「再生可能エネルギー問題」と「省エネルギー問題」が、一石三鳥で解決できそうなアイデアではあるまいか。オアフ島の尊い犠牲が、ハワイの未来に明かりを灯すのである。

 お、オアフ島住民のみなさん、パイナップルで殴りつけるのは勘弁してください。死にます。死にます。