2013/10/11

読書となると話はどこからでもはじまること

 留学してよかったと思うことはたくさんある。その上位に位置するのは、ゆっくり本を読む時間が取れるようになったことだ。

 以下は、私が主に春学期と夏休みにかけて読んだ本である。

赤瀬川原平 「ピストルとマヨネーズ」
阿佐田哲也 「ああ 勝負師」
池澤夏樹 「ハワイイ紀行」
岩城宏之 「指揮のおけいこ」
伊坂幸太郎 「死神の精度」
老川慶喜 「日本経済史 太閤検地から戦後復興まで」
大江健三郎 「万延元年のフットボール」
大野健一 「途上国ニッポンの歩み 江戸から平成までの経済発展」
岡島成行 「アメリカの環境保護運動」
小川洋子 「海」
小川洋子 「ブラフマンの埋葬」
小川洋子 「夜明けの縁をさ迷う人々」
小川洋子 「物語の役割」
小川洋子 「みんなの図書室」
恩田陸 「図書室の海」
開高健 「パニック・裸の王様」
開高健 「屋根裏の独白」
開高健 「破れた繭 耳の物語*」
開高健 「夜と陽炎 耳の物語**」
開高健 「日本人の遊び場」
開高健 「知的な痴的な教養講座」
開高健 「開高健の前略対談」
加藤敏春 「スマートグリッド革命」
紀田順一郎 「日本のギャンブル」
木山捷平 「木山捷平全詩集」
今野敏 「果断 隠蔽捜査2」
今野敏 「疑心 隠蔽捜査3」
坂手洋二 「天皇と接吻」
佐渡裕 「僕はいかにして指揮者になったのか」
猿谷要 「ハワイ王朝最後の女王」
庄野潤三 「ガンビア滞在記」
城山三郎 「甘い餌」
城山三郎 「男たちの好日」
城山三郎 「硫黄島に死す」
城山三郎 「外食王の飢え」
城山三郎 「勇者は語らず」
城山三郎 「臨3311に乗れ」
城山三郎 「冬の派閥」
鈴木直次 「アメリカ産業社会の盛衰」
長谷川四郎 「鶴/シベリヤ物語」
高杉良 「バンダルの塔」
高杉良 「局長罷免 小説通産省」
谷川俊太郎 「はだか」
筒井康隆 「わたしのグランパ」 【再読】
中谷巌 「資本主義はなぜ自壊したのか」
西川美和 「その日東京駅五時二十五分発」
野口悠紀雄 「金融工学、こんなに面白い」
谷崎潤一郎 「少将滋幹の母」
谷崎潤一郎 「蓼食う虫」
半藤一利 「日本型リーダーはなぜ失敗するのか」
古井由吉 「槿」
星新一 「夜明けあと」
町田康 「東京飄然」 【再読】
松井博 「企業が『帝国化』する」
松田道雄 「定本 育児の百科」
丸山健二 「水に映す 12の短篇小説」
丸山健二 「イヌワシ讃歌」
三和良一 「概説日本経済史」
村上春樹 「ねむり」
村上春樹 「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」
村上春樹 「羊をめぐる冒険」 【再読】
村上春樹 「ダンス・ダンス・ダンス」 【再読】
村上春樹 「アンダーグラウンド」 【再読】
村上春樹 「約束された場所で」 【再読】
村上春樹 「夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです」 【再読】
村上龍 「半島を出よ」
村上龍 「空港にて」
毛利子来 「育児のエスプリ 知恵の宝石箱」
柳井正 「現実を視よ」
横山明彦 「スマートグリッド」
綿矢りさ 「夢を与える」
アルジャーノン・ミットフォード 「英国外交官の見た幕末維新」
ウォルター・アイザックソン 「スティーブ・ジョブズ」
カズオ・イシグロ 「夜想曲集」
カズオ・イシグロ 「女たちの遠い夏」 【再読】
サイモン・シン 「フェルマーの最終定理」
スチュアート・ダイベック 「シカゴ育ち」
バラク・オバマ 「合衆国再生」
ヒラリー・クリントン 「村中みんなで」
リチャード・スミス 「カラカウア王のニッポン仰天旅行記」
リチャード・ルメルト 「良い戦略、悪い戦略」
ロバート・ハイルブローナー 「入門経済思想史 世俗の思想家たち」
ロバート・ライシュ 「勝者の代償」
グレゴリー・マンキュー 「マンキュー経済学 ミクロ編」
グレゴリー・マンキュー 「マンキュー経済学 マクロ編」
ジョセフ・スティグリッツ 「公共経済学」
ダン・アリエリー 「ずる 嘘とごまかしの行動経済学」
ダニエル・カーネマン 「心理と経済を語る」
ミルトン・フリードマン 「資本主義と自由」
Dona Wong 「The Wall Street Journal Guide to Information Graphics」
Catherine Smith 「Writing Public Policy: A Practical Guide to Communicating in the Policy-Making Process」
Paul Collier 「The Bottom Billion: Why the Poorest Countries are Failing and What Can Be Done About It」
Sun Tzu 「The Art of War」
Fereidoon Sioshansi 「Smart Grid」
Marilyn Nemzer 「Energy for Keeps: Creating Clean Electricity from Renewable Resources」
Patricia Gosling 「Mastering Your PhD」
Robin Weiss 「The Better Way to Care for Your Baby」
Joseph Stiglitz 「The Price of Inequality: How Today's Divided Society Endangers Our Future」

 相変わらず洋書の数が少ないけれど、まあ、いろいろと読んだものである。これはおそらく、息子が生まれてから、映画やダンスや展覧会やコンサートに出かけなくなったからだろう。

 読書の長所は、どこでもたのしめることだ。喫茶店でも、公園でも、電車でも、飛行機でも、海でも、山でも、お風呂でも、トイレでも(やめた方がいいけど)、あなたの心さえオープンならば、基本的に場所を選ばない。ここまで自由で奥の深い娯楽(あえて娯楽と呼びたい)って、そうあるものではない。いまさらながら、そんなことを思ったのであった。


開高大兄が狐狸庵先生に寄贈して、そのウン十年後、狐狸庵先生がUCバークレーに寄贈して、またそのウン十年後、いま私がこの本を手にしている。それだけで、もう、嬉しくて仕方がない。

(2014年3月17日追記: ほかにも多くの作家が遠藤周作に署名本を寄贈している。私が見つけたのは、丸谷才一「たった一人の反乱」、中上健次「枯木灘」、北杜夫「楡家の人びと」、水上勉「片しぐれの記」、安岡章太郎「走れトマホーク」、小島信夫「月光」、唐十郎「安寿子の靴」、大江健三郎「ピンチランナー調書」、村上龍「限りなく透明に近いブルー」。文学好きにはシビれること請け合いだ)

東アジア図書館の日本語資料はかなり充実している。その経緯は、国立国会図書館月報の記事で詳しく紹介されている。なるほど、古くて怪しい本がたくさんあるわけだ。「變態浴場史」とかね。


 読書となると、話はどこからでもはじまる。

 今回は、本にまつわるあれこれについて、いつも以上に取りとめなく書いてみたい。




<日本語の本の入手方法>
 上に挙げた日本語の本を、私がどのようにして入手したのか。興味ある読者のために、いくつかのパターンに分類してみた。

パターン1: 紀伊国屋書店
 サンフランシスコのジャパン・タウンには、漫画から専門書まで品揃え豊富な紀伊国屋書店があって、ベイエリア在住の多くの日本人を惹きつけている。電話で取り置きもしてくれるので、どうしても発売日に読みたい本(例:多崎つくる)を読むには最適な手段である。
 難点は、定価よりも高いことだ。送料なのか手数料なのかはわからないが、日本で買う値段の約5割増し。これを独占市場の弊害と見るか、まあ異国で買うんだから仕方ないと見るか、このあたりは見解の分かれるところだ。ちなみに、ホノルルの新刊書店も同様の相場観だった(ホノルルではむしろブックオフにお世話になった)。

パターン2: Amazon.co.jp
 日本向けのAmazon.co.jpを使って、海外の住所まで届けてもらうという手もある。難点は、送料がすこぶる高いことだ(国際エクスプレス便だと3,000円もする)。勉強のためにどうしても欲しい本(例:マンキュー経済学)を除けば、なかなか取りづらい選択肢ではある。

パターン3: 友人
 持つべきものは友人というのは本当だ。彼らがバークレーを訪れる機会を捉えて意中の本を買ってきてもらう(例:資本主義と自由)こともしばしばあった。その御礼として、読み終わった蔵書を友人たちに押しつけ・・・もとい、差し上げたりした。本は天下の回りもの、である。
 ちょっと変則的なケースとして、映画監督の友人から映画祭出品作品の字幕翻訳を頼まれて、その報酬のかわりに本を送ってもらう(例:心理と経済を語る)ということもあった。

パターン4: 図書館
 ある種の人々にとって、図書館とはオアシスのようなものだ。バークレーの公共図書館については以前に書いたのでここでは割愛するが、実は大学の東アジア図書館も多くの日本語書籍を有している。大学院生の貸出期間は3カ月という天国的な長さで、私も大いに利用している(例:天皇と接吻)。
 東アジア図書館はモダンな東洋風味の建物で、壁一面の窓からの眺望がすばらしい。GSPPからもほど近く、自習場所としても最適だ。日本語書籍のエリアに近づかないよう留意する必要はあるけれど。


ホノルルとバークレーの公共図書館の貸出カード。どちらも素敵なデザインだ


<二冊の推薦本>
ミルトン・フリードマン 「資本主義と自由」 (日経BP社クラシックス)
 経済学というのは、ある意味で、「市場に任せろ」派と「政府にやらせろ」派の絶え間なき戦いによって発展してきた学問である。そしてこの本は、「市場に任せろ」派の中で、最も有名な古典と言えるだろう。
 まあ古典とはいっても、たとえば「オイディプス王」(約2,400年前)や「プリンキピア」(326年前)と比べれば、51年前に書かれた「資本主義と自由」はずいぶん新しい(経済学というのは若い学問なのだ)。しかし、古典の名に恥じない風格を、この本はすでに有している。
 フリードマンさんはかなりトンがった方であったようで、「20世紀で最も偉大な経済学者」から「異端児(Maverick)」まで、呼び名の振れ幅はまことに大きい。しかし本書を読む限り、この人の凄さは、「明晰な論理」と「平易な説明」という2つの武器の、その見事な研ぎ澄まされぶりにあると思う。
 本書の議論は、現在進行形のものとして、2013年の読者の胸にもしっかり響く。むしろ一周して新しく感じられる箇所もあるくらいだ(職業免許制度の廃止の議論は私には新鮮だった)。氏の主張に与するか否かはさておき、その輝きはもう認めるしかないんじゃないか。
 数式もないし、翻訳もわかりやすいので、公共政策学を勉強される方には一読を薦めたい。「無脊椎動物でもわかる経済学」的な本を読むよりは、たぶんずっと有益だと思う。意欲的な方は、ぜひとも原書にご挑戦あれ。

リチャード・ルメルト 「良い戦略、悪い戦略」 (日本経済新聞出版社)
 著者は、UCバークレーで電気工学の修士を取得 → システムエンジニアとして航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)に勤務 → ハーバードビジネススクールで博士号を取得 → UCLAビジネススクールの教授(兼コンサルタント)という経歴を持つスゴイ人。経営戦略学会の創立メンバーでもあり、マイケル・ポーターと並び称されるような経営戦略論における大家中の大家なのだが、一般向けに書かれた本としてはこれが初めてということだ。
 この本の魅力は、簡潔な言葉で本質を突き刺す、鋭くも心地よい筆致にある。たとえば、IKEAの経営戦略の優れた点について、筆者はこのように説明している。

 ・・・鎖構造になった問題を解決するためには、強力なリーダーシップと計画的な取り組みが必要である。逆に言えば、強力なリーダーシップにより巧みに鎖構造を作り上げてしまえば、容易にはまねできなくなる。
 ここでは、スウェーデンの家具メーカー、IKEAを考えてみよう。同社は1943年に設立され、直営店を通じて手ごろな価格の組立家具を販売している。駐車場を完備した巨大な店舗を郊外に展開し、広々としたスペースで豊富な選択肢の中から選べるのが特徴だ。店員の数は少なく、代わりにカタログが充実している。組み立て前の家具は平たくパックできるので、場所をとらず、運送費も保管料も少なくて済む。また店内に在庫品を置いておけるので、顧客はそこから選んで家まで持ち帰ることができ、配送されるのをイライラして待つ必要がない。家具のデザインはほとんどが自前だが、製造は外注である。しかし全世界に展開するロジスティクスは同社が管理している。
 こうしたさまざまなプロセスの効率的な組み合わせこそがIKEAの戦略と言える。だがこの戦略は、秘密でも何でもない。なぜ他社がこれをまねしたり、さらに良いシステムを考え出したりしないのだろうか。同社が世界最大の家具メーカーの地位と評判を守りつづけているのは、彼らの戦略が鎖構造を形成するものだからである。
 IKEAの方針はどれ一つとっても家具業界では異色であり、しかもそれらが緊密に一体化している。たとえば伝統的な家具店では大量の在庫は抱えない。伝統的な家具メーカーは自ら販売はしない。通常の家具店は自分でデザインはしないし、店員の代わりにカタログで済ませるなどということもしない。このようにIKEAのやり方はひどくユニークなうえに、それらが組み合わされて鎖構造を形成しているので、どれか一つをまねするだけでは効果が得られないのである。一つか二つをまねしても、コストが余計にかかるだけで、IKEAに対抗することはできない。既存の業者が本気でIKEAに対抗するにはゼロから事業を設計しなおす必要があり、そうなれば自分の店と共食いになってしまうだろう。だから、誰もやらない。IKEAが颯爽と登場してから55年になるが、いまだに第二のIKEAは現れていない。

 どうだろう。IKEAのビジネスモデルがいかに独創的で、かつ安易な模倣を許さないものであるか、すっと伝わってくる文章ではないだろうか。(本文ではこの後「IKEAが今後も競争優位を維持するための3つの条件」について述べているが、ここでは省略)

 本書のもうひとつの特徴は、好例も悪例も、等しく実名を挙げている点だ。たとえば、良い例として、エヌビディア、パッカー、トヨタ、セブンイレブン・ジャパンなどが紹介されている一方で、ダメな例として、アメリカ国防総省、コーネル大学、ロサンゼルス統合学区、GM、AT&T、NECなどが、どこがどのようにダメなのかを含めて、遠慮斟酌なく俎上に載せられている。
 「ここまで書いちゃって、将来の顧客との関係とか大丈夫なの?」と、読んでいてこちらが心配になるくらいだ。

 戦略とは、目標でも「あるべき論」でもスローガンでもない。それは、具体的な課題を前にして、現実的に取るべき行動を示すものでなければならない。

 これが、著者の主張のひとつである。きわめて明快なスタンスだ。しかし、それができていない事例のいかに多いことか(私はここでルメルト教授のように具体例を挙げる勇気を持たないけれど)。
 「無脊椎動物でもわかる戦略思考」的な本を山ほど読んだけど結局何も身につかなかったという人は必読。むやみに「戦略」という言葉を連呼する輩や組織に疑問を感じたことのある人も必読。私はどちらもあてはまっていたので、MBAの授業ひとコマぶんくらいの価値があった。




<翻訳者・村井章子さん>
 これは後になって気づいたことだが、上に挙げた二冊の本は、ともに村井章子さんの手による翻訳であった。そう思って読み返してみると、専門的な内容を多分に含みながら、日本語の流れがとても自然で、それでいて翻訳者のエゴが変に前に出てこない。かなりの手練の仕事である。この人の翻訳でなければ、二冊ともここまで感銘を受けたかどうか。
 村井章子さんの名前は、寡聞にしてこれまで知ることがなかったけれど、今回、「この人の翻訳なら読んでみようか」という気持ちになった。経済・ビジネスの分野でそうした翻訳者に出会うのは私にとって初めてのことで、とても嬉しい。
 ためしに村井さんの他の作品(つまり翻訳)を調べてみると、「ミル自伝」、「コンテナ物語」、「金融工学者フィッシャー・ブラック」、「マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー」、「収奪の星 天然資源と貧困削減の経済学」などとある。むむむ、どれも私の関心領域に引っかかってくるタイトルだ。帰国したらぜひ手にとってみよう。




<級友たちのおすすめ本>
 夏休みがはじまる直前、チーム・ブラザンビークの一員だったエヴァンの発案により、GSPPの有志による「たのしみのためのリーディングリスト」をつくることになった。
 その呼びかけの文章がなかなか奮っているので、ここに転載したい。

 I like to read, that is, I read for pleasure. But like you, I haven't had much chance to do so these past few months. Now that summer is upon us, and our less-than-pleasurable reading load is substantially diminished, I'm looking to get back into the habit. Since you are all such smart, charming, interesting people, I thought it'd be nice to have a place where we can share our favorite books with one another, so that we can maximize efficiency and address information asymmetries in our hunt for good summer reading.

 以下に示すのが、そのラインナップだ。本好きの方は唸られるのではないか。私もすべてを読んだわけではないが、「イマジナティブでありながら、現実と切り結ぶ覚悟を持った」作品が多い印象を受けた。みんな忙しいはずなのに、ちゃんと滋養ある本を読んでるんだ。
 「GSPPの学生ってどんな人たちなの?」と訊かれたら、このリストを差し出せば足りるかもしれない。あるいは。

Alvaro Mutis 「The Adventures and Misadventures of Maqroll」
ジョン・アーヴィング 「ガープの世界」
ジュノ・ディアス 「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」
コーマック・マッカーシー 「ブラッド・メリディアン」
ジョーゼフ・ヘラー 「キャッチ=22」
アルンダティ・ロイ 「小さきものたちの神」
村上春樹 「海辺のカフカ」
ディー・ブラウン 「わが魂を聖地に埋めよ」
フランス・ベングトソン 「赤毛のオルムの冒険」
David Jonas 「Amethyst Star」
マイケル・ポーラン 「欲望の植物誌 人をあやつる4つの植物」
Sena Jeter Naslund 「Ahab's Wife」
グレゴリー・ロバーツ 「シャンタラム」
Rachel Joyce 「The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry」
Helen Simonson 「Major Pettigrew's Last Stand」
ジェフリー・ユージェニデス 「ミドルセックス」
デイヴィッド・ミッチェル 「クラウド・アトラス」
マーク・ライスナー 「砂漠のキャデラック アメリカの水資源開発」
John Jeremiah Sullivan 「Pulphead」
デイヴィッド・ロブレスキー 「エドガー・ソーテル物語」

ちなみに、私が推薦した本は、

ガブリエル・ガルシア=マルケス 「百年の孤独」
カズオ・イシグロ 「わたしを離さないで」

の2冊だ。文学好きの方からは「うーん、ちょっとオーソドックスすぎるんじゃない?」という声が聞こえてきそうだけど(まあたしかにそうなんだけど)、読了後、私の内面に大きな不可逆変化をもたらした作品として、ぱっと思いついたのがこの2冊であった。

 ところで、「海辺のカフカ」を推薦したのは、先日奥さんのブログにも登場したタイ人の女の子です。私も4回読みました。英語版のオーディオブックも聴いてみたんだけど、ナカタさんパートの人の声が味わい深いんですよ、これが。




<愛について>
 自分の愛する本について、その情熱をシェアできる人と静かに語り合う。これは、人生における最大の喜びのひとつだ。

 人種の違いとか、宗教の違いとか、世代の違いなんてのは、愛の大きさに比べれば、まったく取るに足らないものである。

 フョードル・ドストエフスキーが、かつて私に教えてくれた。
 地獄とは何か、それはもはや愛せないという苦しみだ。




<ほしいものリスト>
 最近になって、ひとつの法則を発見した。
 読みたい本の数は、読んだ本の数を常に上回る。
 この法則、たぶん私が死ぬまで通用するだろう。

 Amazonでいうところの「ほしいものリスト」を、試みに載せてみる(今後もひっそりと追記していくつもり)。あなたのリストと重なるものは、ありますか?

阿川弘之 「井上成美」
百田尚樹 「海賊とよばれた男」
高野秀行 「謎の独立国家ソマリランド」
服部正也 「ルワンダ中央銀行総裁日記」
青山潤 「アフリカにょろり旅」
岩本千綱 「シャム・ラオス・安南 三国探検実記」
都築響一 「演歌よ今夜も有難う 知られざるインディーズ演歌の世界」
都築響一 「東京右半分」
都築響一 「独居老人スタイル」
米沢亜衣 「イタリア料理の本」
田岡一雄 「山口組三代目 田岡一雄自伝」
大川豊 「日本インディーズ候補列伝」
笠原和夫 「映画はやくざなり」
笠智衆 「小津安二郎先生の思い出」
山中俊治 「デザインの骨格」
原研哉 「デザインのデザイン」
有田泰而 「First Born」
平松剛 「光の教会 安藤忠雄の現場」
三木成夫 「内臓とこころ」
徳岡孝夫 「完本 紳士と淑女 1980‐2009」
山野良一 「子どもの最貧国・日本」
細川布久子 「わたしの開高健」
山口果林 「安部公房とわたし」
岩瀬大輔 「生命保険のカラクリ」
伊賀泰代 「採用基準」
ちきりん 「未来の働き方を考えよう 人生は二回、生きられる」
南場智子 「不格好経営 チームDeNAの挑戦」
入山章栄 「世界の経営学者はいま何を考えているのか」
楠木建 「ストーリーとしての競争戦略」
琴坂将広 「領域を超える経営学 グローバル経営の本質を『知の系譜』で読み解く」
佐々木紀彦 「5年後、メディアは稼げるか MONETIZE OR DIE?」
佐藤優 「読書の技法」
伊集院光 「ファミ通と僕」
永田泰大 「魂の叫び」
梅原大吾 「勝ち続ける意志力」
高橋昌一郎 「理性の限界 不可能性・不確定性・不完全性」
今日マチ子 「COCOON」
吉田秋生 「海街diary」
柘植文 「野田ともうします。」
伊図透 「エイス」
鳥飼茜 「おはようおかえり」
野村宗弘 「とろける鉄工所」
野村宗弘 「カタミグッズ」
小林賢太郎 「鼻兎」
吾妻ひでお 「失踪日記2 アル中病棟」
さそうあきら 「富士山」
さそうあきら 「ミュジコフィリア」
よしながふみ 「きのう何食べた?」
雨隠ギド 「甘々と稲妻」
関谷ひさし 「ストップ!にいちゃん」
グレゴリ青山 「ブンブン堂のグレちゃん」
カラスヤサトシ 「おのぼり物語」
藤子・F・不二雄 「藤子・F・不二雄大全集」(留学中に出版されたもの全部)
藤子不二雄A 「78歳 いまだまんが道を」
荒木飛呂彦 「荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟」
いとうせいこう 「想像ラジオ」
川上弘美 「パスタマシーンの幽霊」
沢木耕太郎 「凍」
筒井康隆 「ビアンカ・オーバースタディ」
筒井康隆 「創作の極意と掟」
石牟礼道子 「あやとりの記」
小川洋子 「原稿零枚日記」
小川洋子、クラフトエヴィング商會 「注文の多い注文書」
司馬遼太郎 「菜の花の沖」
岡本隆司 「近代中国史」
高坂正尭 「宰相 吉田茂」
猪木武徳 「戦後世界経済史 自由と平等の視点から」
上田信行、中原淳 「プレイフル・ラーニング」
金聖響、玉木正之 「ベートーヴェンの交響曲」
向井秀徳 「厚岸のおかず」
増田俊也 「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」
寄藤文平 「絵と言葉の一研究 「わかりやすい」デザインを考える」
今和泉隆行 「みんなの空想地図」
浜井信三 「原爆市長」
鈴木直道 「やらなきゃゼロ! 財政破綻した夕張を元気にする全国最年少市長の挑戦」
神谷美恵子 「こころの旅」
きだみのる 「気違い部落周遊紀行」
今野浩 「工学部ヒラノ教授」
長沼毅 「辺境生物探訪記 生命の本質を求めて」
河本薫 「会社を変える分析の力」
大江健三郎 「人生の親戚」
長嶋有 「問いのない答え」
吉村昭 「零式戦闘機」
佐貫亦男 「不安定からの発想」
ドナルド・キーン 「ドナルド・キーン自伝」
マーセル・セロー 「極北」
リシャルト・カプシチンスキ 「黒檀」
サイモン・シン 「暗号解読」
ベルナール・ウェルベル 「蟻」
イエ・グワンチン 「貴門胤裔」
莫言 「白檀の刑」
レオノーラ・キャリントン 「耳ラッパ」
マリオ・バルガス=リョサ 「チボの狂宴」
ガブリエル・ガルシア=マルケス 「誘拐の知らせ」
ガブリエル・ガルシア=マルケス 「ぼくはスピーチをするために来たのではありません」
ディーノ・ブッツァーティ 「タタール人の砂漠」
ミハイル・ブルガーコフ 「巨匠とマルガリータ」
ニコール・クラウス 「ヒストリー・オブ・ラヴ」
ジョゼ・サラマーゴ 「白の闇」
イェジ・アンジェイェフスキ 「灰とダイヤモンド」
ラッタウット・ラープチャルーンサップ 「観光」
アントニオ・タブッキ 「供述によるとペレイラは・・・」
ミカエル・ニエミ 「世界の果てのビートルズ」
レイフェル・ラファティ 「九百人のお祖母さん」
ジェイムズ・ホーガン 「星を継ぐもの」
アルブレヒト・ヴァッカー 「最強の狙撃手」
ヘンリー・キッシンジャー 「キッシンジャー回想録 中国」
アルトゥール・ルービンシュタイン 「ルービンシュタイン自伝」
リー・アイアコッカ 「アイアコッカ わが闘魂の経営」
クラウディオ・マグリス 「ドナウ ある川の伝記」
シンシア・スミス 「世界を変えるデザイン ものづくりには夢がある」
ジャレド・ダイアモンド 「昨日までの世界 文明の源流と人類の未来」
ダニエル・マックス 「眠れない一族 食人の痕跡と殺人タンパクの謎」
セオドア・グレイ 「世界で一番美しい元素図鑑」
リチャード・ムラー 「サイエンス入門」
レドモンド・オハンロン 「コンゴ・ジャーニー」
ポール・セロー 「ダーク・スター・サファリ」
オノレ・ド・バルザック 「役人の生理学」
ブランコ・ミラノヴィッチ 「不平等について 経済学と統計が語る26の話」
ジョン・クイギン 「ゾンビ経済学 死に損ないの5つの経済思想」
ダロン・アセモグル 「国家はなぜ衰退するのか? 権力・繁栄・貧困の起源」
ショーン・ウィルシー 「ああ、なんて素晴らしい!」
マーヴィン・ハリス 「食と文化の謎」
エイモリー・ロビンス 「新しい火の創造」
ジョゼフ・キャンベル 「千の顔をもつ英雄」
アレン・ネルソン 「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」
マルクス・アウレーリウス 「自省録」
ポール・タフ 「成功する子 失敗する子 何が『その後の人生』を決めるのか」
ジョン・ケイ 「想定外 なぜ物事は思わぬところでうまくいくのか?」

(2013年10月20日追記:「不格好経営 チームDeNAの挑戦」は、バークレー漂流教室でNさんが貸してくれました。ありがとう、Nさん!)

(2013年11月2日追記:「デザインのデザイン」と「理性の限界」は、バークレーを訪問されたブログ読者のTさんから頂戴しました。Tさん、感謝です!)

(2013年11月20日追記:「内臓とこころ」と「子どもの最貧国・日本」は、バークレーを訪問されたブログ読者のOさん夫妻から頂戴しました。ありがとうございました!)

(2014年3月13日追記:「灰とダイヤモンド」は、バークレーに短期滞在されているブログ読者のKさんから頂戴しました。読ませていただきます!)
 

2013/10/04

【JGRB】 第1回「バークレー漂流教室」のお知らせ

新入生歓迎会の成功で勢いづいたJGRB、今度は、「バークレー漂流教室」と題する勉強会を開きます。モデレーターは、不肖、私が務める予定です。

「開発学は素人なんだけど・・・」というあなた。心配いりません。私も素人です。
バークレーに流れる自由な「知」の空気を、一緒にたのしみましょう!

案内メールが既に届いている方は登録不要ですが(そちらのメールにご返信ください)、そうでない方も、気兼ねなく私までご連絡ください。

---

バークレー漂流教室:  第1回 全方位の開発学

経済学から伝統智まで、およそ考えつくあらゆる専門領域と関わりを持つことから、「全方位の学問」と言われる開発学(出所:Satoru)。

多彩なバックグラウンドを持つ皆さんが集まって、切り込んでみたら、またひとつ、新しい風景が見えてくるかもしれません。

初心者、大歓迎。
独自の視点、熱烈歓迎。
ゆるく、たのしく、でも志は高く、開発学への登攀を目指します。

日時: 10月19日(土)12時~14時頃
場所: Goldman School Public Policy, Room 105 (地図はこちら)
参加費: $5 (ピザと飲み物をご用意する予定です)
スピーカー: 開発学に造詣の深い日本人3名 (予定)

ご参加希望の方は、

 1.氏名/所属
 2.(もしあれば) 開発学に関する研究/仕事の内容 
 3.(もしあれば) 開発学に関して興味深く思っていること、最近読んだおもしろい本など

の項目を添えて、当方までお申し込みください。




(2013年10月21日追記)
開発学関係者はもとより、「門外漢サイド」からも、法曹界から医学界まで、幅広く才智ある人たちに集まっていただきました。おかげで、刺激的な(刺激的すぎてちょっとここには書けないような)お話をたくさん伺うことができました。

ご参加いただいた方々に、改めて御礼を申し上げます。
このイベントの成功は、留保なく、皆さまのおかげです。


準備中にGSPPのヘンリー学長が来て、「Berkeley Drifting Classroom?なんだ、そりゃ」と首を傾げてたのがおもしろかった。ま、そりゃわからないわな。

当初の予定は2時間だったけど、結局3時間半も費やしてしまった。これは司会である私の責任です。すみません。

はじめに、スピーカー以外の参加者から簡単に自己紹介をしてもらった。「参加者の多様性をどこまで確保できるか?」という当初の懸念は、この段階で心地よく吹き飛んだ。

次に、開発学に造詣の深い3名(大学教授、開発機関職員、NPO職員)から、「わたしの歩んだ道」に関するお話。皆さん「漂流教室」の趣旨をご理解くださり、たのしい裏話をいろいろ語っていただいた。(全20枚にわたる各スピーカーのスライドは省略)

第2部では、各スピーカーから事前に募った「常々思っていること/他のお二方&参加者に聞いてみたいこと」を肴として、ゆるめのディスカッションを行った。

大学で長年研究をしていて、「これって一体何の役に立っているの?」とふと自問したMさんからの質問。その回答として、「影響評価などの学問的な裏付けはプロジェクトの予算獲得の根拠となる。また、関連論文が米国政府のGAO(Government Accountability Office)やCBO(Congressional Budget Office)に引用されると、それは担当者にとって大きな『後ろ盾』となる」など。

開発機関で長年勤務してきたUさんからの質問。アカデミック寄りの参加者からは、「使ってるよ」の声と、「正直、あんまり・・・」の声が、およそ半々。活用を難しくしている要因として、「検索作業の煩雑さ」と「データの信頼度の低さ」の2点が主に挙げられた。
「データの信頼度の低さ」については、世銀の能力云々というよりも、最貧国で統計データを得る行為自体の難しさについて言及された。国によっては「データでっちあげビジネス」のような闇商売も横行しており、データの真偽を見分けるのはきわめて難しいとの指摘もあり。

これは私からの質問。最近読んだPaul Collierの「The Bottom Billion」では、いつまでも経済成長できない最貧国の共通要因として「1.紛争の罠」「2.天然資源の罠」「3.悪い統治の罠」「4.悪い隣国の罠」という4つの項目が指摘されている一方、Dani Rodrikの「One Economics, Many Recipes」では、途上国で経済成長がうまくいかない要因として「高すぎる資金調達コスト」や「低すぎる事業収益」などを掘り下げ、国ごとに特有のボトルネックを見つけ出すという成長診断(Growth Diagnostics)アプローチを提唱している。私はどちらの主張にも一定の理があると思うけれども、実際の線引きはどうなっているかというところに興味があった。
もちろんこれは、一朝一夕に答えの出る問いではない。さまざまな立場から、さまざまな意見が寄せられた。その中で個人的におもしろく思ったのは、「南アジアや北アフリカといった単位でいえば、地域特性は明確にある。あるいは、狩猟文化 or 農耕文化というカテゴリの分け方もある」と、「Aの政策とBの政策を組み合わせたらうまくいきやすい、といった経験知のようなものが開発機関には蓄積されている」という2つのコメント。

ヒマラヤの小さな村で1年暮らしたOさんからの、開発学の根幹に迫る質問。「経済成長は本当に善なのか?」 ⇒ 「問題意識はわかるけど、『物はなくても心は豊か』なんてセリフは、明日の飯にも困っている人たちの胸に本当に響くのか?」とか、「100年先を見据えた大局的な開発計画が必要なのではないか?」 ⇒ 「それが行き過ぎると計画経済になっちゃうんじゃないか?」とか、開発学を志した人なら誰しも一度は突き当たるであろう問題を、改めて議論した。