2012/12/30

バークレーで買い物や貰い物をしたこと

商品番号1: SilverRestのマットレス(500ドル)
 アメリカで生活を立ち上げるにあたって最初に決意したのは、「寝具にはお金をかけよう」ということである。
 いろいろな選択肢をあたってみたが、最終的に、Amazon.com(米国版アマゾン)で評判の良かったSilverRestのマットレスを購入することにした。単体で500ドル。日本で使っていた残存簿価1円の煎餅布団に比べれば大出世である。寝心地も申し分ない。あまりに心地よくて、ある日などは1日15時間も眠ってしまったくらいだ。私は生後1カ月の赤ちゃんか。

 ところで、Amazon.comの配達人の辞書に不在通知という言葉はないらしく、不在時には玄関前に容赦なく放り出されることになる。このマットレスも、巨大なボンレスハムのような格好で、ある日突然に現れた。炊飯器(象印。153ドル)、浄水器(PUR。32ドル)、ドライヤー(Revlon。15ドル)、浮世絵(葛飾北斎。9ドル)も同様だった。
 盗まれたらどうするんだ?でもいまのところそういうことはない。日本にいた頃、佐川急便の不在通知をカードゲームができるくらい集めてしまった過去を思い返すと、「アメリカ式」の方が合理的な気もしてくる。
 枕と布団とシーツは、UCバークレーの家族寮(UC Village)からバスで40分ほどの距離にあるIKEAにて購入した。値段は忘れたが、合計150ドルでお釣りがくる程度だったと思う。




商品番号2: Cannondaleのクロスバイク(450ドル)
 次に必要なのは、自転車である。渡米直後こそ新品のロードバイクを買おうと意気込んでいたのだが、
 ①バークレーの道路は総じて舗装状態が悪く、通学にロードバイクは不向きであること
 ②自転車泥棒が予想以上に多いこと(この4ヶ月間で6人の友人が盗難に遭った)
の2つの理由から、「中古だけどそれなりに戦えるクロスバイク」という路線に変更し、数週間かけて方々を調べた結果、Craigslist(全米で最も有名なコミュニティ・サイトのひとつ)を通じてオーストリア人の学生から購入した。
 バークレーの中古自転車市場は需給ともに相当な量で、100ドルも出せば然るべき自転車を買うことができる。そういう意味では450ドルはわりに高額なのだが、このBADBOY(2011年モデル)は日本でも人気のクロスバイクで、新品を買えば10万円は下らない。そういうわけで、エイヤっと大枚をはたいて購入した。

 ところが、このBADBOYというブランド名が、奥さんにはすこぶる不評であった。BADなBOYとは何事か。縁起がよろしくないというのだ。そこで彼女は、「するめ → あたりめ」の応用で、「BADBOY=悪男(わるお)→ GOODBOY=良男(よしお)」と勝手に命名してしまった。
 しかし、不承不承ながらも「よしお」と呼びかけ、サドルのあたりを優しく撫でやれば、その姿はどこか黒い仔馬のようでもあり、どことなく愛着も増してくるから不思議なものだ。家族寮からキャンパスまで毎日往復50分、よしおは働き者である。
 写真のヘルメットと鍵は、日本から持参した。
 (2013年2月11日追記: よしおは、今日、盗まれてしまった。合掌。)




商品番号3: 勉強机(15ドル)
 勉強机の選定には時間がかかった。バークレーの家具屋さんをいくつか回ったが、どうにもピンとくるものが見つからない。いや、ピンとくるものはあるのだが、それらはことごとく予算をオーバーしていた、という表現の方が正確か。
 そうして私は、うねうねと決断できぬまま、クロネコヤマトの段ボールに布をかぶせた机(のようなもの)で本を読んだりレポートを書いたりする丁稚奉公のような日々を送っていた。
 すると僥倖は向こうからやってくるもので、家族寮のムービング・セール(バス停や自習室などによくチラシが貼られている)で具合の良さそうな勉強机が見つかった。15ドル。小学三年生くらいの中国人の男の子の「お古」で、何やら判読できない落書きが随所に見受けられたが、それもまたご愛嬌である。




商品番号4: 本棚(0ドル)
 しかし、本棚はまだ見つからない。クロネコヤマトの段ボールに工作を施した本棚(のようなもの)で凌ぐ日々である。正直、もうこれでいいのかもしれない。




商品番号5: BOSEのヘッドホン(300ドル)
 8年前から愛用していたヘッドホン、BOSEのQuietComfort2が、こともあろうに渡米の3日前に故障してしまった。当然修理も間に合わない。別れはいつも突然にやってくる。
 そこで私は、アメリカ到着後にAmazon.comで某社のヘッドホンを購入したのだが、これがなかなかの代物で、「三蔵法師の呪文で頭の輪っかをぐんぐんに締めつけられて悶絶する孫悟空の気持ちを追体験したい人向けのグッズ」という観点からは文句なく★5つなのだが、「音楽を聴くために両耳に装着する機器」という観点からは残念ながら★1つであった。

 やはり浮気はいけない、BOSEに操を捧げるべきなのだ。そう思い直した私は、サンフランシスコのBOSE直営店に足を運び、シリーズ最新機種のQuietComfort15を購入するに至った。300ドル。安い買い物ではないが、音質は抜群に素晴らしい。バークレーを歩いているとしばしば同好の士を見かけることがあり、これもまた嬉しい。
 ちなみに私が最近よく聴いているのは、クラムボン、サケロック、ローラ・ニーロ、ゴリラズ、ビル・エヴァンス、ベートーヴェン(特に後期弦楽四重奏曲)といったあたりである。こうして挙げてみるとほとんど共通点がないというか、まあ我ながら節操のない趣味である。




商品番号6: JBLのiPod用スピーカー(40ドル)
 先程「BOSEに操を捧げる」などと書いておきながら、iPod用スピーカーはJBLの製品(On Stage Micro II Speaker System)を買ってしまった。まあその、ゴホン、あの、ゴホン、いろいろ事情があるというか、その、ゴホン、すみませんでした。
 購入先はAmazon.comで、新品で買うと100ドル強のところ、Refurbishedで40ドルだった。音質も悪くない。そりゃあもちろん、JBLの「本気」のスピーカーには及ばないけれど。
(Refurbished:初期不良品をメーカーが修理し、新古品のような扱いで市場に出される製品のこと)

 写真のiPod touchは、日本から持参したもの。バークレーでは、家族寮とキャンパス全域のほか、市営図書館や喫茶店などでも無料でWifiが提供されているため、事実上、(iPod touchを)維持費ゼロのiPhoneとして使うことができる。肝心の電話機能は、奥さんがどこからか見つけてきた「HanaCell」という在米日本人向けのサービスを使えば、月額9.99ドルである。通信料がこんなに安く済むとは、渡米前には予想だにしなかったことである。




商品番号7: テレビ(80ドル)
 テレビは購入しないつもりだった。というのも、私は長らくテレビジョン受像機なるものを所持しておらず(記憶する限り、最後に見た番組は安達祐実主演の「家なき子2」という体たらくである)、それのある生活にうまく馴染めるかどうか、もうひとつ自信がなかったからである。
 しかしながら、アメリカのテレビは移民や聴覚障害者などのために字幕がつけられるという話で、これを語学学習に活用しない手はなく、家族寮に住む日本人の方から80ドルで購入するに至った。
 然して結果はどうだったか。「この3カ月で累計10時間ほどしか視聴しなかった」という事実を指せば失敗であったし、「大統領選挙をリアルタイムで楽しめた」という事実を指せば成功であった。総合的な判断は、ここでは留保することにしたい。
 テレビ台は、クロネコヤマトの段ボールに布をかぶせたもので代用した。クロネコヤマト、さっきから無双の活躍である。




商品番号8: ソファー(50ドル&100ドル)
 私と奥さんは、アメリカにいる間は「ものは少なく」をポリシーに生活しようと考えていたので、ソファーの必要性を認めることは特になかった。しかし、秋学期の終わりにインド人とチリ人のクラスメートの自宅にそれぞれ招かれた際、その内装の親密さに夫婦ともども心を打たれたことをきっかけに、「せめてソファーくらいは」と、信条の変節というか、考えがくるりと変わってしまった。
 するとまたしても僥倖は向こうからやってくるもので、近隣の日本人が帰国する話が立て続けに2件あり、各々の家庭からソファーを譲っていただいたのが2週間前のことである。
 写真左のフロアランプは、ソファーの持ち主から5ドルで購入した。



 そのほかにも、電子レンジ(15ドル)、コーヒーメーカー(10ドル)、カラープリンター(10ドル)、ジューサー(5ドル)、各種食器(0ドル~3ドル)、掃除機(0ドル)、電気スタンド(0ドル)、丸椅子(0ドル)、クイックルワイパー(0ドル)、トイレクイックル(0ドル)などを、近隣の住人たちから格安あるいは無料で頂戴した。

 この場を借りて、改めて御礼を申し上げたい。といっても日本語の読めない方にはこのメッセージはたぶん届かないんだけど、それでも気持ちとして。


2012/12/25

アダルトスクールの多様性にも感銘を受けたこと

先生 「今日のテーマは、泥棒です」

先生 「グアテマラでは、何がよく盗まれますか?」
グアテマラ人 「バスが盗まれます」
先生 「えっ?」
ブラジル人 「ブラジルでもそうだよ」
カメルーン人 「カメルーンもそうやで」

先生 「イラクでは、何がよく盗まれますか?」
イラク人 「何でも。どこでも盗まれるよ」
パレスチナ人 「パレスチナでは、家が盗まれるわ」

先生 「トルクメニスタンでは、何がよく盗まれますか?」
トルクメニスタン人 「トルクメニスタンには、泥棒はいません」




 先々月から、バークレー・アダルトスクールのESL(English as a Second Language)のクラスに通いはじめた。アダルトスクールは、市民向けの講座を提供する公立学校。「たのしいフラダンス」とか、「すこやか太極拳」とか、「やりなおし基礎数学」とか、「すぐに使える!Adobe Photoshop」とか、「再チャレンジ!スペイン語」とか、まあ講座名はいま私が勝手に意訳したけれど、そんな按配の講座がいろいろあって、そのひとつにESLのクラスがあるというわけだ。

 公立であるため、授業料はとても安い。ESLのクラスなどは、週4回×3時間、1セメスター(約5ヶ月)でたったの45ドルである。移民たちに英語を教えるのは、治安対策や対米感情の向上なども含め、全体的としてアメリカの国益にかなうということなのだろう。

 私の思うところ、アダルトスクールの最大の魅力は、生徒たちの多様性にある。以前、このブログでGSPPの多様性について触れたことがあるけれど、国籍と年齢の面ではアダルトスクールに軍配が上がるのではないか。

 たとえば、私のクラスメートの国籍は、メキシコ、ブラジル、グァテマラ、エルサルバドル、チリ、中国、韓国、モンゴル、インド、パキスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャン、イラク、イエメン、パレスチナ、アルジェリア、カメルーン、ロシア、ポーランド、フランス、ドイツ、イタリア、バスクという幅の広さだ。バスク人に出会ったのは初めてのことで、思わず「トレヴェニアンって知ってる?」と鼻息荒く尋ねたが、答えは「誰それ?」であった。残念。
(トレヴェニアン:アメリカの覆面作家。代表作に日本とバスクを舞台にした小説「シブミ」など)

 年齢は、20代から70代まで、平均して30代後半といったところ。生徒たちは、各々の人生で各々に成功し、また各々に挫折し、妥協し、衝突し、出会い、別れ、そうして何がしかの事情と屈託を抱えてこのクラスに来ている。その琥珀色の味わいは、UCバークレーではなかなか得られない種類のものだ。




先生 「今日のテーマは、男女の賃金格差です」

先生 「あなたの国では、男性と女性のどちらの給料が高いですか?」
生徒A 「男性」
生徒B 「男性」
生徒C 「ほぼ同じ」
生徒D 「ほぼ同じ」

・・・

生徒E 「女性」

先生 「おや、珍しいですね。なぜですか」

生徒E 「戦争があったから。男たちは、みんな、死んでしまったから」