UCバークレーの公共政策大学院では法律学が必修科目なので、予習を兼ねて樋口範雄「はじめてのアメリカ法」に挑戦してみた。私はアメリカ法についてほぼ無知に等しかったが、ケース(判例)を肴とした滋養ある語り口にゆるゆると惹きこまれながら読むことができた。
例えば、「マクドナルドのコーヒーをこぼしてやけどした81歳の女性に対して約300万ドルの賠償が認められた」という話を聞くと「なんだそりゃ」「狂っとる」などと思うけど、でもその判決に至るまでの経緯(過去10年間で同様の事故のクレームが700件あったのにマクドナルドは何ら措置を取らなかった)や、その背景(マクドナルドはコーヒーの香りを維持するために他店のコーヒーより敢えて高い温度設定にしていた。そして被害者のやけどは植皮しても一生傷跡が残るレベルだった)、あるいは賠償額の相対価値(マクドナルドの1日あたりのコーヒーによる収益は当時130万ドルあまり)を考慮すると、むしろきわめて妥当な判決のように思えてくる。そんな具合に、この本には読者に発見と知的興奮を促す仕掛けがたくさんあって、実に「本の読ませ方」を心得ていて面白い。
アメリカにとって法律というのはつまり、「正義」を具現化するための最も有力なツールなのだ。本書を読んで得た(浅いながらの)私の理解は、それである。
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