本書の著者であるEugene Bardach氏は、目録によれば1973年からカリフォルニア大学バークレー校公共政策大学院(Goldman School of Public Policy。私がダメモトで出願した大学院のひとつだ)で教鞭を取られている人で、公共政策学という比較的新しい学問分野において重鎮とも言えるポジションにあられるようだ。今年初旬に第4版が出たとのことで、私が読んだのはそれであった。
「A practical guide for policy analysis」は、180ページ程度の薄い本だが、その密度はなかなかに濃厚だ。Introductionで著者自らが教え子の言葉を借りて評するように、「この本は、さっと楽しく読んで済ませるには適さない。むしろ繰り返しその機知を味わい参照すべき基本書として位置づけられるものである」。私もそう思う。
タイトルには「Policy Analysis」とあるが、政策分析に留まることなく、政策立案の領域にも踏み込んでいる。本書の前半では政策分析/立案を行う上で有用な「8つのステップ(The Eightfold Path)」を紹介し、後半ではそれらをどう実践するかについて、いくつかの具体例(例えば、米国内のコカインの消費量を減らすためにどのような政策を実行するべきか)を用いて詳述している。
ここで「8つのステップ」とは、
ステップ1 問題を定義する (Define the Problem)
ステップ2 証拠を集める (Assemble Some Evidence)
ステップ3 政策の選択肢を用意する (Construct the Alternatives)
ステップ4 評価基準を選ぶ (Select the Criteria)
ステップ5 成果を予測する (Project the Outcomes)
ステップ6 トレードオフに直面する (Confront the Trade-Offs)
ステップ7 決断する (Decide!)
ステップ8 ストーリーを語る (Tell Your Story)
のことである。こうして書くと何てことないようだが、掘り下げていくと現実の政策立案はそんなに簡単にはいかないし、大変なエネルギーを要するものであるということが、この本を読むとよくわかる。
私がこの本を読んで得たいちばんの収穫は、公共政策大学院で何を勉強するのかというイメージを描けたことだ。読者各位は「えっ。9校も出願しておいて、そんな基本的なところも抑えていなかったの」と驚き呆れられるかもしれないが、正直申せば、そのとおりである。
逆に言うと、これから公共政策大学院への出願を検討される方は、本書を読んでおいて間違いはないだろう。私の勉強机の引き出しの中に突如タイムマシンが出現して、1年前の自分に会いに行けるとしたら、「つべこべ言わずこれを読め」と本書を押し付けたいものだ。
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(2013年4月14日追記: 本記事の約3ヵ月後に、UCバークレー公共政策大学院の日本人卒業生による訳書「政策立案の技法」が出版された。以下は、私がAmazon.co.jpに寄せた書評である。各ステップの和訳が上の文章と微妙に異なっているが、あえてそのまま転載する)
<政策立案の技法>
UCバークレー発、政策分析の定番教科書。
あるいは、「世の中を良くする」ための手引書。
ビジネスの分野では「マーケティングの4P」や「ポーターの5F分析」などのフレームワークが根強い人気を誇っているが、本書で紹介されている「8つのステップ」は、公共政策(Public Policy)版フレームワークと言えるかもしれない。著者はUCバークレー公共政策大学院で40年近く教鞭を取られた方とのことで、読み終えてみると、その経験の蓄積が200ページ弱の本書に濃縮還元果汁的に詰まっているような印象だ。
「政策分析は科学(サイエンス)というよりは技術(アート)だ」と主張する本書によれば、8つのステップとは以下のとおりである。
ステップ1 問題を定義する
ステップ2 証拠を集める
ステップ3 政策オプションを組み立てる
ステップ4 評価基準を選ぶ
ステップ5 成果を予測する
ステップ6 トレードオフに立ち向かう
ステップ7 決断!
ステップ8 ストーリーを語る
著者はこの8つのステップそれぞれにおいて、具体的に何をするべきか(あるいは何をするべきでないか)について、読者に寄り添うように丁寧な説明を展開する。例えばステップ2の「証拠を集める」では、「コンタクトの難しい情報源に接近する方法」「ヒアリング時に会話を盛り上げる方法」「身構えた情報提供者を動かす方法」「政治的な思惑からの批判を防ぐ方法」といった、どこまでも実践的なアドバイスが満載で、ひとつの読み物としても面白い。
政策分析というと何となく難しい印象があるけど(私もそう思っていたけど)、それは要すれば「世の中を良くする」ための手段であって、本書はそのための絶好の手引書である。国家公務員、地方公務員、NPO職員、学生、その他「世の中を良くしたい」と考える向きには一読をお薦めしたい。
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