高野誠鮮「ローマ法王に米を食べさせた男」は、石川県羽咋市役所に勤める一介の職員でありながら、その異能ぶりによってスーパー公務員として世に知られる著者による、痛快無比な仕事本である。
本書を読むと、高野さんがプランナーとして、プロデューサーとして、ファシリテーターとして、ネゴシエーターとして、いかに抜群のセンスを持っているかがよくわかる。個人的には、2012年「読んでいて体の芯が熱くなった本」部門、ベストワンだ。
次から次に面白いエピソードが繰り出される本書を要約するのは簡単ではないけれど、以下に箇条書きを試みる。
・NASAから本物のロケットを1000万円で買いつけたり、月の石を100年無料で借りるなど、宇宙科学博物館の立ち上げに向けて奔走するも、上司の嫉妬を買い、「クズ職員が行く」とされる農林水産課に左遷。
・神子原地区は65歳以上が人口の半数を超える「限界集落」で、平均所得はわずか87万円。高野さんのミッションは、60万円の予算(!)で、この地区を活性化させること。
・1年で成果を出すために、「会議はやらない」「稟議書は出さない」「決裁書は作らない」「上司には事後報告」という、「後出しじゃんけん法」を市長に提案。了承させる。
・都市住民に「棚田オーナー」になってもらい(米40kgで3万円)、田植えや刈り取りの作業をしてもらう制度を構築。CIAの「ロバートソン査問会」レポートの戦略に基づき、イギリスの領事館員に第1号オーナーになってもらうことで、内外のマスコミにアピール。
・都会の若者を農家に招いて農業体験をしてもらう制度を提案するも、県庁から旅館業法にひっかかるとクレームがつく。そこで、日本古来の伝統文化である「鳥帽子(よぼし)親」のアイデアを活用し、(仮とはいえ親子関係であり)商売ではないため法律違反にはならない、というアクロバティックな主張で許可を得る。
・神子原のコシヒカリをブランド化するため、天皇皇后両陛下への献上を試みるも、宮内庁に断られる。そこで今度は、(神子原を直訳すると「the highlands where the son of God dwells=イエス・キリストの住まう高原」ということで)ローマ法王ベネディクト16世に手紙を書く。ローマ法王がお米を食べるかどうかは知らないけれど。
・数ヵ月後、ローマ法王庁から連絡あり。市長には事後報告して、とりあえず大使館に同行してもらい、最終的に献上米の許可を得る。その2日後から、神子原米の売り上げが爆発的に伸びる。
・エルメスの書道家に米袋のデザインを直接お願いし、書いてもらう。
・県内の酒造メーカーと組んで、日本でいちばん高い酒を造ってもらう。
・ミシュランの三ツ星を獲得したアラン・デュカスに米のワインを造ってもらう。
・デジタル・グローブ社と交渉して、人工衛星を使った米の食味測定を無料でやる。
どうだろう、この行動力。この突破力。こうして書いているだけで、テンションが上がり、鼻息もふんふんしてくる。
可能性を無視するのが最大の悪策、と高野さんは主張する。本当に「役に立つ」のが「役人」です、という。いや本当にそのとおりだ。私もがんばらないと。